旅程

1976(昭和51)年の軌跡

詩集第一作

 

 

 


旅に人は憧れて
旅に人はためらいながら
旅は人を誘った

今やスタートラインも見えなくなって
長い道程が続いている

貴方も
昨日迄の僕の旅程を
辿ってみませんか?

 

 

服部 誠


 

 

No.1
ひかれて、そして・・・



風吹く街から北に見る
幾重の山は何処迄続く?

山の向こうの知らない街へと
ただひたすらに引かれてゆく

街並はずれの小さなお家
出会無用の田舎道

灯りひとつの部屋の中には
飛び出しそうな気持が燈る

遠くの街の呼び声に相槌打って出かけたい
ひとりきりの旅真似事にひかれて、そして遠くの街へ



 

No.2
分かれ道ーーーーー道程



俺の俺の行く道はどっちだ
どちらも石ころだらけのジャリ道
眩暈のするような遠い道
俺にしては、あまりに遠く、あまりに暗い
灯りを求めてマッチ1本取り出してみても
「シュッ」と擦る音を呑込むように
北風が消してゆく

迫る人の呼び声耳に
走り始めた「時」と「僕」は
スタートラインも今は消え
見えぬゴール目掛けた旅だ
目指せる人の幸せは
目指せぬ人しかわかりはしない

逸れる人の鳴き声耳に
走り続ける「時」と「僕」は
延びた道に今更などと
掛ける言葉を失くした旅だ
去り行く人の愛しさは
留まる人しかわかりはしない

諦め人の溜息耳に
やはり見えない「時」と「僕」は
術も知らずに宛もない
繋がりの切れた旅、旅、旅だ
意図なき人の瞳には
走り始める憧れはない





 

No.3
あなたが言いたくないのなら



かすかな記憶の中に
昔の町が浮かんで見える
あなたがいいたくないのなら
あえて僕は尋ねはしない
知ってしまえば、この世は闇だ
誰かにすがるように
生きてゆかなきゃならないから


あなたがいいたくないのなら
あえて僕は尋ねはしない
過去の姿をたぐりだす
たぐる糸は太くなり
ふいにプツリと切れている


あなたがいいたくないのなら
あえて僕は尋ねはしない
傍の女に尋ねてみたい
昔の僕の生きざまを
とても、とても怖いけど
昔の自分を見てみたい


あなたがいいたくないのなら
あえて僕は尋ねはしない
どよめく海の波のように
絶える事ないこの思い
気まぐれあなたの一言に
何故かそり耳たてている
 

あなたがいいたくないのなら
あえて僕は尋ねはしない
かすかに曇る記憶の一部が
過去へのしるべとなっている
白いソファーに横になり
季節は夏の盛りだろうか?
隣の部屋がそのまま見える
いにしえ知らずの若者一人
あなたが言いたくないのなら・・・




 

No.4
付き添う女



電車の扉から一人の男が降りてきた
両脇の松葉杖がとても大きく見える


彼を支えるかのように
一人の女が傍に居る


彼は駅のホームを少しずつ
我ものにするような運動を繰り返す
 


付き添う女は笑いもしないかわりに
泣いたりもしない

 

彼には何も見えないのだろう
ただ、見えるのは
今、その瞬間の
彼の瞳に映る冷たいコンクリートだけだろう



ひとつの若い男と女は
黙々と改札口へ歩いて行った
 

 

No.5
別れの郊外電車



ひき払った下宿の隅で
ペンを取っても
震える手なので
「別れ」の文字は書けません

確かに僕等は
引かれていたのに
だけど今では
あまりにも遅すぎたのでしょう

街灯下のいつもの場所で待っている
君の姿は悲しいけれど
とても行けない
二人の思い出かき消すような
窓越しにに見る郊外電車

君の瞳にも
やはり映るだろうか?
空舞う星の
絶えない動きが


いらなくなるよな
肩かけバッグを開いてみたら
白い紙に包まれた
僕の気持ちがわかるだろう


街灯下のいつもの場所で待っている
君の姿は悲しいけれど
とても行けない
二人の思い出かき消すような
窓越しにに見る郊外電車


街灯下のいつもの場所で待っている
君の姿は悲しいけれど
とても行けない
二人の思い出かき消すような
窓越しにに見る郊外電車

 

No.6
てんてんてまり

(松山 母恵夢応募、当選・ラジオ放送作品



子供の手から滑り落ち
コロコロ転がるてんてんてまり
坂の上から転がって
止まる事を忘れてる

一体、何処まで行くんだい?
果てのない旅、気まぐれの旅
何処迄も何処迄も転がって
行き着く所を知らないてまり

坂を転がる手まりとて、
何処迄行くのかわからない
道から逸れて川の中
グルグル、グルグル流れてく


海の果て迄の旅かい?
違うよね
君は手の中にいるだけで
幸せのはずなんだ

それでも てんてんてまり 流れてく

人が故郷を離れるように
君も自分の故郷を捨てるのか
坂の上の小さなお家
かわいい幼子に突かれていたのに・・・


てんてんてまり何処迄行くの?
てんてんてまり止まるの忘れた?
てんてんてまり幸せを捨て
てんてんてまり旅好きになる


てんてんてんまりてんてまり
てんてんてまりの手が逸れて
何処から何処迄飛んでった?
垣根を越えて屋根越えて・・・


海の果て迄の旅かい?
違うよね
君は手の中にいるだけで
幸せのはずなんだ・・・

それでもてんてんてまり流れてゆく
坂の上を転がって
川の流れに身をまかせ
てんてんてまり迷い船
終わり知らずのひとり旅

 


No.7
謝罪の人



街中通り裏通り
寄り添う二人の不思議な会話
うつ向く女の悲し顔
追いたい気持ちに謝罪の男


つぶらな瞳の赤ん坊
母の背中のぬくもりの中
あの娘が映る
あやすつもりのひとり芝居
泣かれて気落ちの謝罪の女

つぶらな瞳の赤ン坊
母の背中のぬくもりの中
あの娘が映る
あやすつもりのひとり芝居
泣かれて気落ちの謝罪の女


鈴虫一匹転がっている
命のはかなさ感じる秋の夜
いつかは同じ限りの命
動かぬ運命に怯えながらも
ただ、祈り続ける謝罪の人は

 


No.8
見ざる、言わざる、聞かざる、知らざる



誰でも皆んな自分がかわいい
僕だって笑い者になりたくはない
見て見ぬふりは辛いけど
生きてゆくには仕方がないさ
だって傍らの男も
こうしてきたのじゃないのかい?


悲し涙に笑いの素顔
素直になれないこの世の中で
言わぬふりは辛いけど
生きてゆくには仕方がないさ
だって傍らの女も
そうしてきたのじゃないのかい?


人の悩みに冷や水を差し
泣き真似過ごしの嘲者
聞かぬふりは辛いけど
生きてゆくには仕方がないさ
だって傍らの男も
こうしてきたのじゃないのかい?


噂、揉み消す焦りの姿

人の眼怖れる小さな自分
知らぬふりは辛いけど
生きてゆくには仕方がないさ
だって傍らの女も

そうしてきたのじゃないのかい?


誰でも皆んな自分がかわいい
僕だって笑い者になりたくはない
見て見ぬふりは辛いけど
生きてゆくには仕方がないさ
だって傍らの女も
そうしてきたのじゃないのかい?

だって傍らの男も
こうしてきたのじゃないのかい?


 


No.9
いいきかせ


笑い顔など見たくもない
どうせいつもの事だろう
自分の姿、姿を隠し
そんな誇りは捨ててもいい


悲し顔などやめてくれ
季節の終わりも近いけど
自分の想い、想いを胸に
それだけなんだ何もいらない


移る気持ちに迷いを秘めて
何処迄僕は漂うのだろう
逃げる明日に手を差しのべて


淋し顔など忘れろよ
「黄昏の空」思い出すから
自分の心、心を空に
それが僕の生き方だ

 

移る気持ちに迷いを秘めて
何処迄僕は漂うのだろう
逃げる明日に手を差しのべて



 


 


No.10


人がみな 我より偉く 見ゆる日よ
花を買ひ来て 妻と親しむ
           ー石川啄木ー

 

皆んながとても偉く見える
いや、
ぼくがそれ程劣っているのかもしれない
人と人との触れ合いを避けている今、
僕は一体どんな存在なのだろう?
とても辛い
それでもこの中から
僕の真の目標に向かって歩みたい
光はない!
どこにも光はない
道がある事さえもわからない闇の中
どうする術もない
ただ自分自身を信じて
俺は間違っていない
少なくとも誤った道ではなかった
だがこの淋しさはどういうわけだ
ひとりになったこの淋しさ
僕ひとりの道だ
誰も僕と全く同じ道を歩むことはできない
相手が悪いと思っていても
自分の甘さも気にかかる
ひねくれ、すねてのこの気持ちは
何ものにも例えがたい
やはり僕は許せない
涙に負けたと悔やみたくない
淋しい、とても淋しい
ひとりぼっちの夕暮れ時は
眠気のなさに気付く事も今はない
とうしよう?

 


No.11
あの娘は誰(ダーレ)?


澄んだ瞳のあの娘は  誰?
うつむき加減のあの娘は  誰?
思い悩む事もない
たとえ明日が雨降り日でも
傍らの花も今日は綺麗ね
後姿の影も長びく


つぐんだ口のあの娘は  誰?
見知らぬ振りしたあの娘は  誰?
悩み苦しむ事もない
たとえ姿が失せようと
息衝くあたりのたのもしさ
俺の想いもふくらんでゆく


大人しずましのあの娘は  誰?
ひとり想いのあの娘は  誰?
苦しみ消える事もない
たとえときめく想いであれど
日毎にかすむ戸惑いの中
後追う夕日の影も長引く


かわいいあの娘に出会ったけれど
かわいいあの娘は冷たいよ
傍らのあの娘の方がいい

つんつん気取りのあの娘の姿は
どこか淋しい影がある
 

 

No.12
俺の道だから


惨めな自分にさよならしよう
通りすがりの人だけさ
噂するのも時にまかせて
傍らの道に迷い込み
脱け出す足跡見つけよう
互いに離れて引かれるものだ


淋しい自分に別れを言おう
思い悩むも今の内
明日の自分を早く見つけて
俺の新年守り持つ
少し寄り道したと思えば
軽さと共に歩き出そう


時の歩みは過去を消し去り
俺の歩みは明日を見出す
今、この変わり目の想いを胸に
行き着く所まで歩み行こう


悲しい自分にさよならしよう
想われ人の心を捨てて
ひとり歩きの自分にもどる
信じる事は忘れまい
回り道しか選ばなくとも
俺の道だ この泥道は
 

 

No.13
激雨


もの打つ雨に驚くように
屋根裏千鳥は羽根畳む
途切れ途切れの鳴声は
激雨の渦になす術もない

がなる女の笑い声
何する者かと他所人眺む
劣る者より優る者
激雨の渦になす術もない

陰の涙を見るがいい
涙する人呼ぶがいい
在るものすべて流してしまう
激雨の渦を眺めてみよう

過ぎる雨にひとり言
誰聞く者ない戯れ言葉
ひとり思いの部屋の中
激雨の渦になす術もない

 

No.14
さまよい雲


さまよい雲に声かけて
君の想いを確かめる
風の後押しなくなれば
思い巡らす事はない

さまよい雲をみつめても
空の青さが気にかかる
陽ざしの輝きなくなれば
気に病む事はもうしない


折りふし通った木影道
ひたすら信じた君との契りは
影の冷たさ引き連れてきた
若い若い思い出だった


迷い流離うさまよい雲は
戯れ過去の僕に似ている


さまよい雲に思いを馳せて
・・・
 

 

No.15
思いを寄せて、思いを馳せて


・・・
 

 

No.16
湖岸にて

・・・

 

No.17
気怠さ

・・・

 

No.18
北に光を見た!

・・・

 

No.19
昨日の君とは思えない

・・・